僕の生きる道 イヒヒ [中村先生と共に生きる人々]
2003年に放映されたドラマ「僕の生きる道」様々なキャラクターの登場人物がいます。そんな中、一際個性的であり、主人公の中村秀雄を文字通り救ったのが敬明会病院の外科医、金田勉三(小日向文世)でした。
公式ホームページのBBSの書き込みでも医療従事者の方々が患者さんと接する上で参考になったという書き込みも多数拝見することが出来ました。
さて、そんな金田医師を一言で形容する言葉を探すのは難しい。
ラジオドラマ「もうひとつの僕の生きる道」に登場する研修医・神林武志の言葉を借りれば『つかみどころがない』人物 ― 。
金田先生は患者さんから慕われているのは間違いありませんが、単にやさしいとか、人当たりがいいとか、採血する際の注射がうまいだけ・・・ということではありません。
この先生、言うときははっきり言います。告知のシーンも家族と同席をと促しながら、やりとりのうちに告知をします。
検査の際、他の人と間違いを訴えた中村秀雄に対して
「それはない。あれは、君のものだよ。」
中村秀雄はその言葉を聞いてもなお信じられず食い下がります。
「僕は別に大きな成功とか、そういうことを望んだことはありません。ただ、毎日を平穏無事に暮らせればいいんです。そりゃあ、小さなことはいろいろとありますよ。でも、大きなトラブルは一度もなくここまで過ごしてきたんです。・・・そんな僕が、こんな目にあうはずないんですよ。・・・おかしいと思いません?こんなの不公平ですよ。これは何かの間違いなんです。そうですよね、先生 ― !」
心乱れたまま話をする秀雄にむかい、金田は冷静に言う。
「そうだね、君がそう思うなら、間違いかもしれない。」
「でも、確かなことがひとつだけある。それは、君が今、生きているということ。今、生きていることは間違いはない ― 」
また、自暴自棄になり、自殺を試みた中村秀雄との会話
「僕は・・・自分で死ぬこともできないんですか」
「ああ、そうだ。」
「僕の命ですよ。どうしようと勝手じゃないですか!」
「・・・君に自分で死ぬ権利なんかない!」「ついさっき、僕の患者さんがひとり亡くなったよ。一ヵ月後に娘さんの結婚式があってね、なんとか一ヶ月、あと一ヶ月でいいから生きたいって、最後まで言ってた。僕はそういう人を何人も見てきたんだ。」
こんな部分もありながら、やはり金田先生らしいのは少々おふざけなところ。謹慎中の秀雄に対してふと思いついたように、予言者のようにペンをかざして厳かな顔で言う。
「 ― その人は、ある日突然やってくる。一番最初に現れたその人を絶対逃がしちゃダメだ。その人は生涯を通じて君の味方になってくれるだろう。」
と言い放つ。
で、実際にみどり先生(矢田亜希子)が味方しれくれたことを秀雄は金田先生に報告をする。なのに、金田先生は「なんだっけ?」ととぼけてみせる。挙句の果てに「ああ、あれは嘘」とまで言う。
金田先生は別に中村秀雄さんにだけそのような事をしている訳ではない。以前、秀雄が自殺したのではと尋ねてきた初対面の秋本みどりに対して
「秋本さん、あなたは、中村さんの特別な人?」
と聞く。その時はみどりにより否定されるのだが、その後みどりが結城香奈(ラジオドラマとリンクしているので後から判明)の見舞いに訪れた時に今度はみどりの方から金田に尋ねる。
「あの ― 、先生は私のことを中村先生の特別な人だと思っていたみたいですけど、どうしてですか?」
「そんなこと言ったっけ?」
とまたもやとぼけてみせる。
勿論、覚えていないわけは無い。ナースの畑中琴絵(眞野裕子)が香奈の病室に向うみどりを見て
「今の方、どなたでしたっけ?」
との質問にさらりと答える
「彼の、運命の人」
金田は人々と特に患者さんと接する際に細かい部分まで観察している。僅かな情報でも蓄積し、それらを総合的に判断する能力を持っている。だから、事故ではなく自殺ではと尋ねてきたみどりに対して、秀雄の特別な人ではと推測したことが、秀雄の変化と共に確証となり、秀雄の生きる活力になっていることを早々に見抜いたのでしょう。
そして、秀雄が彼女が出来たと告白した際に「秋本さん?」と聞き返し、秀雄さんを驚かせます。「なんで、知っているんですか?」の質問に伝説の返答「イヒヒ」が生まれるのです。
金田先生はこのように緩急のバランスに優れた人物なんでしょう。だが、見えないところで冗談じみた顔をシリアスな表情に変えていく部分が彼の本当の姿かもしれません。
でも、こういった人は病院経営をビジネスとだけ考える経営陣には受け入れられないことも多いようです。実際、秀雄が謹慎中に一連の騒動を金田、畑中に聞かせると
「なるほどね。ま、組織にいると、いろいろあるよね」
とコメントする。秀雄はそれを聞いて
「先生もですか?」
と驚いてたずねる。すると金田は
「そりゃあ、僕だって。ね、畑中さん?」
「そ。いろいろあるんですよ」
と畑中琴絵さん、躊躇なく答えております。金田先生のスタイルは病院の中でも異端なのかもしれません。でも、後に畑中琴絵さんは尊敬するドクターと一緒に仕事が出来たと言います。勿論、そのドクターは金田先生です。
金田先生は多くの人を救い、中村先生を名実とともに救いました。ただ、人と人の付き合いは片道通行ではなかなか成り立ちません。
中村秀雄を救った、金田勉三は秀雄と接するうちに、医師としてまた成長していると思います。
ドラマ「僕の生きる道」の中には心の染み入る素敵な言葉がたくさん登場します。その中の一つ、ルターの言葉がある。その言葉は秀雄さんに結婚の決意を促し、僕らの心を震わせた。金田先生が教えてくれた言葉。
「たとえ明日、世界が滅亡しようとも、今日、私は、りんごの木を植える ― 」
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