僕の生きる道 合唱続けさせたいって顔

２００３年1月から放映されたドラマ「僕の生きる道」

余命1年を宣告された主人公、高校の生物教師・中村秀雄（草彅剛）。

彼自身の変貌と彼に影響を受け、与えた人々を今回も取り上げたいと思います。

今回、クローズアップするのは・・・

私立陽輪学園　教頭　古田進助

県内でも有数の進学校の教頭として、現場を指揮する古田（浅野和之）は学園の理事長である秋本隆行（大杉漣）に頭が上がらない。

常に学園に出向いているわけではない理事長。その理事長がやって来る時には教頭の意識の全ては理事長に向けられる。

経費で購入した老舗虎屋の羊羹を差し出す。賞味期限は６ヶ月。いつも最低1本は古田教頭の机の引き出しに入れている。しかし、あまり古いものを出してもいけない。羊羹も定番商品だけではない。季節の期間限定商品もある。理事長もかなりグルメだから、もし期間をずれているのを出してしまったら大変だ。だから、残ったのは食べちゃおう～。

理事長室には麗子先生（森下愛子）に指示をして新しい花を飾らせる。彼なりの気配りはあまり相手を思いやる意味での気配りではなく空振りに終わる事が多い。

理事長は流石に人物を見抜いており、古田の性格をよく知っている。その上で彼を教頭に据えているのは、理事長が古田教頭の才能を重々理解しているのでしょう。

でも、ドラマが始まった当初はイメージ悪かったですね。

他の先生方は巧く立ち回っているのに中村先生は間が悪いから、古田教頭先生の八つ当たりを蒙ります。

しかし、余命を知った中村先生、そんな古田教頭先生に口ごたえします。赤坂栞への指導に関して、秀雄は古田から非難されていました。（背景として、経費節減のため、酷く寒いのに教員室のエアコンの電源を教頭先生は切ってしまっています。）

「確かにひどいことを言いました。でも、教頭先生は、生徒にことを思って怒っているわけじゃないですよね。僕の上司として責任を取るのがいやなだけですよね」

「な、なんだって」

「それから、エアコンのことですけど、どうして電気代はケチるのに、理事長のお茶菓子代は贅沢なんですか？」

「お茶菓子代は、その、私が自分で・・・」

「違いますね。セコく経費で落としていることくらい、僕、知ってますよ。寒いので、エアコンつけます」

これで、中村先生は同僚のみんなからヒーロー扱いです。その晩、居酒屋で飲んでいるときの久保先生（谷原章介）の言葉が端的に示しています。

「中村先生は、俺たちが思ってたような人じゃなかったてわけだ」

この日の飲み会には当然、古田教頭先生は出席していません。まあ、当たり前か・・・。でも、この日は教頭先生、悔しかっただろうな・・・。でも事実のようだしね。

じゃあ、この古田教頭先生がみんなから嫌われているのか？

そうでもありません。

赤井先生の結婚が決まったとき、古田教頭先生は赤井先生と仲間の先生方を飲みに誘います。その日は珍しくおごりという事で・・・。

その日の飲み会では、先生方は容赦なしでした。既に飲んで、食べた後のようでテーブルの上には食べた後の食器や鍋が並んでいます。そして、追加オーダーを頼みます。

ちょっと目が泳いでいる古田教頭先生以外の全員がビールの大ジョッキを頼み、更に、蟹のカルパッチョ、ごろっと芋バター、今月のお薦め・浜茹で紅ずわい蟹、地鶏のカツおろしポン酢、鳥の軟骨揚げ、北海道コロッケ、シャケのハラス焼き、稲庭うどん、パリパリ大根とジャコのサラダ。

古田教頭先生、流石に財布の中身が気になってきたのでしょう。青い顔をしています。何か言いたい古田教頭先生の言葉を制してみんなが気がついた。

そう、教頭先生の酒が空いているじゃないか！

「教頭先生にはウーロンハイ」

これは大失態（笑）　会社に入ってこのあたりの事は徹底的に教わりました。（？）

もう、やけになった古田教頭先生、小声で「大至急ね」って言っています。

でも、皆さん。本当に嫌な人から積極的に驕ってもらおうとしますか？

僕はしませんね。

恐らく、散々食べた後は久保先生が巧く立ち回ったはずです。

会計を終えたあと、久保先生がそっと1万円札を出すとか・・・。

もしくは明朗に男４枚、女３枚。では教頭先生、ご馳走様。とかね。

勿論、主役の赤井先生に関しては少なくともこの日だけは支払いは無し。そう、お祝いの主役なんだから。

そんな古田教頭先生は立場上厳しい事は言うけど、心優しい部分を垣間見せます。

古田教頭は理事長の隆行から秀雄の体のこと、そして娘のみどりとその中村先生の結婚のことを話します。

やはり、すぐに未亡人となることに賛成できない親としての立場と教育者としての立場で隆行は揺れていました。古田はよき聞き手として、隆行の話を聞き、そして励まします。

家を飛び出した、みどり先生に理事長が風邪をひいたことを教えます。遠回りにちょっと様子を見たほうがいいのではと伝えているのです。

全力で生きようとする中村先生の姿に影響を受けた古田教頭も変わります。

秋本理事長に言われたとおり、少しでも長く中村先生が教師としてやっていけるように、まず秀雄と話し合いをして、納得の上で教師連中に告白します。古田は現場の責任者としてそれを構築しようとします。

中村先生の行動が全てを巻き込む中ひとつ問題が起きました。

中村先生が始めた合唱が父兄の耳に止まりました。実際、塾に遅れたり休んだりしている生徒もいたようです。

練習方法を変えて、受験勉強に影響の出ないようにすると、中村先生とみどり先生（挙式後ですね）から提案を受けますがＰＴＡ会長の強力な要請もあり、合唱の存続を渋ります。でも、教頭先生はこの頃から合唱を応援し始めていました。

そんなとき、秀雄は倒れてしまいます。

生徒達にも思わず、秀雄の病気のこと、そして余命も知られてしまいます。（岡田先生の回を参照下さい）

生徒達の歌声を聞きながら生還した中村先生は尚一層、合唱の存続を希望します。そして、秀雄とみどり先生は古田教頭にとんでもない提案をします。

それは模試で全員希望の大学の合格判定でＡ判定を取る事です。

その提案を受けた古田教頭先生は、理事長に相談も無しに認めます。古田教頭は行動を起こしました。ＰＴＡ会長の田岡雅人の母親（銀粉蝶）に全員Ａ判定を取り続ける事を条件に合唱の練習の継続を提案します。

雅人の母親もそれは到底無理な事だと思い了承します。

でも、古田の意識は変わっていました。日々、中村先生の様子を見ている古田にとって、決してそれは無理な事ではないと思っていました。いや、本音では無理かな～とも思っていたはず。でも、それよりも生徒達に、中村先生にチャレンジしてもらう場所を提供したかったのでしょう。

理事長にも事後に報告します。

その報告に理事長も目を輝かせます。理事長もちょっと不満に思っていた古田教頭の消極性。でも、今回教頭先生は理事長に何も相談せずにＰＴＡと協議し決定しました。古田教頭も変わったんです。

「君、初めてだね。私の顔色をうかがうことなく、何かを決めたの」

「・・・え・・・まあ、結果は分かっているというか、どうせ合唱は解散なわけですし、いちいちご相談するまでもないと思いまして」

「ホントに無理だと思ってる？」

「え　―」

「いや。合唱、続けさせたいって顔、してるからさ」

 

そして、運命の模試の判定結果が返ってきました。それが手元に届くと真っ先に中村先生に駆け寄ります。そう、古田教頭も心配で・・・そう、理事長が指摘したように何とか合唱を続けさせてあげたい気持ちの表れだったんです。

 

そして、全員Ａ判定を取る事が出来ました。

みんな大喜びです。

そんなとき、ＰＴＡ会長の田岡が学校にやってきます。

応じたのは古田教頭でした。

全員Ａ判定という結果に勝ち誇ったように古田は田岡に伝えます。

田岡は約束は守る。合唱は認めると言います。でも、親として不安があったのです。

「でも、この先、中村先生にもしものことがあって、それが受検シーズンだったら、どうなるんでしょうか。子供たちは、動揺して、受検どころじゃなくなってしまうんじゃないですか・・・？」

「そう心配されるお気持ちは、ようくわかります。だからと言って、中村先生に、教師を辞めて欲しいとは言えません。・・・命に、もしものことが起こるかもしれないのは、我々も同じです。中村先生は、たまたま余命が分かっているだけの事です。私には、教師を辞めて下さいとは言えません。それは、社会的に死んで下さいと、言ってるようなものですから・・・」

「それはよくわかります。でも・・・」

「田岡さん　―　田岡さんに、見てもらいたいものがあります・・・」

教頭先生不安を吐露するＰＴＡ会長の田岡を案内して体育館に連れて行きます。そこでは中村秀雄が指揮をし、みどり先生が伴奏をしています。そして、生徒達・・・息子の雅人を含めてＧ組の生徒達が本当にいきいきと合唱をしているのを見て田岡は納得します。

この時の教頭先生は格好よかったね～。正直ドラマの当初に教頭先生がこんなに格好よく見えるとは思いませんでした。

田岡と共に階段を降りた、古田教頭先生。入れ替わりに吉田均君（内博貴）が階段を上がっていきます。すれ違った後、古田教頭は吉田君を見て、うんうんと頷きます。教頭先生もしっかりと各クラスの状況を把握しています。唯一Ｇ組で合唱に参加していなかった吉田君も合唱へと参加してくれると分かったようです。そのドラマの映像は階段に明るい光が射しています。

その光は秀雄と共に生きる全ての人々に射す光のようでした。